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天安の思い出
向ヶ丘天安が閉店してから11年余りが過ぎようとしている。向ヶ丘2丁目の信号近く、お寺などが近くにある閑静な街の店舗があったところは、現在ビルが建っている。
お店は間口の狭い奥に細長い造りで、カウンター席とテーブルが1,2。お店はご主人と奥さん、それに給仕の女性が1人の3人だった。
メニューは天丼と上天丼(上は鱚が一匹丸付けのあなごに変わる)、それに天ぷらご飯2種類。後はお好みで揚げてくれた。
ほとんど上天丼(上丼)を注文していたが、当時1,300円位だったと記憶している。
注文するとご主人が復唱するのだが、しわがれてドスの効いた声で「はい、ご新規さん上丼一丁。」と言っていた声がまだ耳に残っている。
天安の天ぷらは衣が強めで、サクサクとした食感よりしっかりとした天ぷらで、天てんぷら単品または天ぷらご飯で いただくと、よこたや天茂のようなさくっとした軽さは無かったが、天ぷらを丼つゆに通し天丼にすると、えも言われない天安の天丼に変貌する。まさに天丼のための天ぷらといえる揚げ方だった。
これは女将さんが羽釜で炊いていたご飯に依るところが大きい。この天安の女将さんが炊いたご飯に匹敵するご飯にはその後なかなか出会えない。本当に美味しいご飯だった。
現在東京では日本橋の金子半之助がかなり話題になってる。たしかにコストパフォーマンスは高いが、閉店時点の天安の天丼は確か1,000-位だったからそれほど値段に差がある訳ではない。
それより天丼としての完成度を考えると、スロ−フードとファストフード程の違いがあった。天安の天丼は江戸前天丼の一つの完成形だったような気がする。
また、天ぷらの中にかき揚げがあるかないか、海老や穴子などと全く違った揚げ方をしてければならないところに天ぷら職人の技術があったんだと、天安の天丼を思い出すたびに考えてしまう今日この頃である。
--------(2000.02のレビュー)-------------------------------------
平日の1時過ぎに店が空いていることを期待して出かけた。期待は裏切られず、何回か通ったなかで初めて私の分1個だけで揚げてもらった。
気のせいかもしれないけれどサクサク感がいつもより良く、この日は特に美味かった。(いつもが美味くないわけではありません)
やはり、ここの天丼は天ぷら、ご飯、つゆ、どれをとっても江戸前天丼とすれば最高レベルだと思う。確かに他のてんぷら屋さんで、美味い天丼はあるかもしれないが、てんぷらでなく天丼を食べに行って、値段の事も考えるとここは本当にすぐれたお店だと思う。 2000.02
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